不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第28章 お姫様
お店の駐車場につき、ログハウスのようなこぢんまりとした建物に入る。
木材の良い香りと、ガーリックのような食欲をそそる香りとが漂っていた。
「うわぁ、綺麗なお店だね。いい匂い~!」
私たちはあえてカウンターに肩を並べた。
「広い席じゃなくていいのか?」
「…だって、瀬川くんと隣がいい」
口をへの字にして言うと、彼は私の頬をつついてにっこりと笑った。
「お前、飲みなよ。遠慮すんな」
「えぇ、一緒に飲めなきゃ意味ないよぉ」
「帰ったら俺も飲むから(笑)せっかくだし、ほら、ワイン沢山あるぞ」
「うぅーん…でも…」
同窓会で再会してからまだ1年も経っていないのに、瀬川くんは私のことを隅々まで熟知していた。
メニューを眺め、私好みのワインを指差すと
「このへんが、チリ産だってよ。お前いつもまずはパッケージで決めるじゃん(笑)どれがいい?」
いつもそれとなく、でも確実に彼は私を誘導する。
私の扱いが本当に上手で、当の本人である私はいつも感服させられる。
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
私が見やすい角度でメニューを持つと、選び終えるまでジッと待ってくれる。いつもそうだ。
「…これ!」
瀬川くんは「予想があたってなんか嬉しい」と言い、ククッと笑った。
「ふふっ。…自分の好みを把握してもらえてるのって、こんなに嬉しいんだね…」
「ん?俺はまだまだ、もっと知りたいよ」
運ばれてきたワイングラスと、コーラの入ったグラスをぶつける。
瀬川くんが注文してくれた”季節のアヒージョ”には、ナスやトマトなどの夏野菜が色とりどりに泳ぐ。
「ナス好き?」
「うん、大好き!」
「俺も(笑)」
こんなささいな会話でも、心から幸せなひととき。
本格的な窯焼きピザが運ばれてくると、彼はフォークに黒オリーブを刺して私の口に運んだ。
「んん~~っ、おいひぃ~!」
「ふふっ、お前ほんとオリーブ好きな」
「うん、それも黒がね!」
「なんならこれ全部食うか?(笑)」
結局私はグラスワインを3杯ほど飲み、お店をあとにした。
「結局3杯も飲んじゃった…なんだか悪いなあ」
「いいって、やっと仕事も落ち着いたんだし。楽しめ(笑)」