不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第5章 恋人ではない
翌朝、私は瀬川くんの腕の中で目が覚めた。
起きたとき隣に彼が居る朝はいつも、心からしみじみと幸せを感じる。
眠りとの境目でぼんやりしていると、瀬川くんも起きたようで私の髪を撫で「おはよ」と言った。
「ん…おはよう…」
「ふふっ。もう少し寝る?」
「ううん。…今何時かなぁ」
「今は…、もうすぐ8時。荷物何時に届くの?」
「9時から11時のあいだに…!起きなきゃ…」
眠い目をこすりながら瀬川くんにすり寄ると、優しく抱き寄せてくれる。
素肌が触れ合ってあたたかい。
5月も後半に入り、カーテンの隅から漏れる日差しは熱いほどだ。
「シャワー浴びてもいーい?」
「もちろん。俺ちょっと工具とか取ってくるから、先入っててな」
私は洋服で身体を隠しながらシャワールームへ向かい、瀬川くんは外へ出ていった。
昨夜、強く口づけされた鎖骨には薔薇の花びらほど赤く染まった痕が付いている。
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ドライヤーをあてていると瀬川くんが戻ってきた。
私に微笑みを投げかけると、「俺も」と言ってシャワールームに駆け込んでいく。
母屋には広いお風呂があるだろうに、はなれであるここでシャワーを浴びる彼がなんだか無性に愛おしい。
まだ少し髪は湿っていたけれどドライヤーを終えて部屋に戻り、荷物をまとめてテーブルの上を片す。
「ナオト~~?」
不意に外から女の人の声がして、私は驚いて一瞬体がこわばった。
どうしよう、と思った瞬間にドアが開き、そこには自分の母親よりも少し年上に見える女性が立っていた。
瀬川くんのお母さんだ。
ばっちりと目が合うと、
「あらやだ!なに~、お客さん来てるんなら言いなさいよ~!」
と豪快に笑った。
奥から瀬川くんがパンツ一丁で出てくると、落ち着いた様子で「なに?」と言った。
「なに?じゃないわよ。まったくもう~お客さん居るなんて知らないから、あんたもう~」
笑いながら手をひらひらさせ、めずらしいものでも見るように私を見ている。