不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第1章 樹が生まれた日
当たり前のように財布を取り出す瀬川くんに、
「私出す!今日は、紗奈のだし…運転させちゃったし」
と言うと彼は私が取り出した財布をぐいっとしまわせ、
「いいって。ほら、車行ってて」とキーを渡す。
口をへの字に曲げ見つめる私に、「いいから(笑)」と更に背中を押す瀬川くんは、いつも私にお金を出させなくて、そんな気遣いにいつも私の心が潤う。
私は言われたとおり先に車に乗り込むと、バラ組のトークルームをひらいた。
奈美もアンナもすぐに行くと言っているので、先に病院に到着しているかもしれない。
ケイは下の子が熱を出していてすぐには行けないことを謝っているが、紗奈がトークルームを確認しているかは分からない。
瀬川くんが戻ってきて、車は病院に向かって走り出した。
夜間入り口の前に着くと、「サポート頑張ってな。また連絡して」と言ってコンビニの袋を渡してくれる。
「ありがとう」
少しだけハグをして、チュッと軽いキスをしてから私は車を降りた。
手を降って見送ると、瀬川くんは片手を挙げてから”早く行きな”と目で合図をした。
私はうなずいて病院に入り、受付で紗奈の名前を伝えると産科病棟を案内された。
小部屋に入ると奈美とアンナもすでに到着していて、紗奈もベッドで談笑していた。
「ありがとね、来てくれて」
「え、平気なの??」
「陣痛がおさまってるときは全然平気なんだよね!笑っちゃうくらいに(笑)」
私は元気そうな紗奈の姿にホッとした。
「私もそうだった!陣痛おさまった瞬間に爆睡したり、なんだかありえない時間の流れ方だった~(笑)」
奈美が言うと、アンナは興奮した様子で
「あぁ~、ドキドキする~~!」
と騒ぐ。
それからまた陣痛の波がやってきて、奈美が紗奈の腰を強くさすり、私とアンナはオロオロしながらも紗奈の手を握り声をかけ、汗を拭いたり水を飲ませたりした。
これまでに聞いたことのないような彼女の喚き声に最初は困惑したが、新しい命が生まれる奇跡とその大変さを目の当たりにし、すでに涙が溢れそうになっていた。