不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第5章 恋人ではない
「梅干しとね、海苔の佃煮。だってもう、お客さん来るなんて知らなかったもんだから~、こんなものしかなくて。ごめんねぇ?!時間あればシャケをね、買ってきて…-」
「もういいって(笑)」
お母さんは私にだけ分かるように瀬川くんを小突く仕草をして、笑った。
車に乗り込み、窓ガラスからお礼を言う。
「はいはい、じゃ、気をつけて~!」
手を振るお母さんを後に、車は走り出した。
「ごめんな、うるさくて(笑)」
「ううん!憧れちゃうな…あんなお母さん」
「そうかぁ?」
「うん、うちはどっちかと言うと放任だったから。…ね、おにぎり食べたい!」
「そんなんで良ければどうぞ(笑)」
アルミの包みを広げると、手作り感あふれるおにぎりが4つ並んでいた。
「わぁ~!海苔も一緒に握ってくれてるやつだ!私これ好きなの。パリパリの海苔より、しっとりが良いんだよね!」
「あぁ、コンビニのはパリパリしてるもんな(笑)」
「そうそう。やっぱり誰かに作ってもらったおにぎりは特別おいしい~」
瀬川くんにもひとつ渡すと、2人でおにぎりを頬張った。
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「ね、お母さんに、私のことなんて言ったの?」
「なんてって、彼女?って聞かれたから…とりあえず頷いたけど」
”頷いた”ことに嬉しくもあり、”とりあえず”に複雑な気持ちも混ざってきた。
「とりあえず、ね」
「まぁ、今はあんまりこだわらなくても良いのかなってね」
「うん…そうだよね」
寂しいけれど、私たちの関係に名前を付けるとするなら、それは”恋人”ではない…。
週明けに離婚届を出すとは言え、私は仮にもまだ人妻だ。
瀬川くんを独り占めできるわけでもなければ、私自身を誰かに委ねることも出来ない。
そうこうしていると私のアパートに到着し、部屋に入った。
「おぉ、良い部屋だな。キッチンがでかくてお前らしいというか(笑)」
「それ、アンナにも言われた(笑)」
中途半端に組み立てられた棚を見ると瀬川くんは苦笑した。
「これは確かに、女だけじゃ大変だな…」
「途中から部品とかワケ分かんなくなっちゃって…」