不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第1章 樹が生まれた日
それから何度か陣痛が起こったあと、看護婦さんがカーテンの向こうで子宮口を測る。
「そろそろ分娩室いきましょうか!うちは歩いてもらうからね~(笑)ラクなタイミングで、分娩室まで来てね。」
「えぇ~!鬼~~!」
なげく紗奈に看護婦さんはエールを送るように背中をバシッと叩き、「お母ちゃんになるんだぞ!頑張れ、頑張れ!」と言って去っていった。
なるべく波が来ていないタイミングで紗奈は立ち上がり、ゆっくりゆっくり歩き出す。
私たちは支えたり、声をかけながら騒がしく廊下を進んでいった。
紗奈が分娩室へ入ると私たち3人は廊下の長椅子に座り、一息ついた。
時刻は深夜2時を過ぎたところだ。
「私は実家だから大丈夫だけど、2人とも時間大丈夫?仕事とか…」
奈美が言うと、
「うん、私朝から仕事。どうしよう?」
とアンナが時計を確認している。
「私はたまたま明日仕事入れてないから大丈夫!」
私が言うと、アンナも意を決したように
「よし!ギリギリまで居ることにする!8時出社だから…6時半くらいまでなら大丈夫。寝ないで仕事行くとか若いな~私(笑)」
笑っている彼女に私と奈美は「大丈夫?」と心配しながらも、紗奈の出産を待ちわびていた。
結局、時間がかかることを覚悟していたものの、紗奈が分娩室に入ってから1時間半ほどで看護婦さんが「生まれましたよ!」と報告にやってきた。
私たちはワイワイと喜びの声をあげ、病室で紗奈を待つことにした。
紗奈が赤ちゃんと戻ってくると室内はいっそう盛り上がり、疲れた表情ながらも笑みを浮かべて赤ちゃんを見つめる紗奈に私まで顔がほころぶ。
「ママにお名前をもらわなくちゃね~」
と奈美が言うと、すこしの沈黙の後で
「・・・いつき」
と紗奈がつぶやいた。
「いくつか候補はあったけど、生まれてこの子を見たら、あ、「樹」だぁ~!って、直感(笑)」
「いつきくん。良い名前だね!」
「いっちゃ~ん、アンナおばさんですよ~」
ひとしきりいっちゃんに声をかけたあと、アンナは仕事のため帰っていった。