不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第8章 なにかが変わる時
カウンターに腰掛けると、
「おや、久しぶりじゃない。元気にしてた?今日はちょうど席が埋まっててね」
とマスターがカウンターの向こうから微笑む。
「マスターこそ元気にしてた?最近バラ組きてる?」
「いや、いつ頃か…冬以来かな、来てないね。みんな忙しいのかね」
「紗奈がね、無事に出産したの。それでバタバタしてたりね」
「ほんとう!そりゃあ、めでたいね。今日は?」
「今日はね、奈美とデートなの」
奈美に会うのは紗奈の出産の時以来だ。
私は奈美が必ずと言っていいほど毎回注文するローズヒップティーを2人分注文すると、久しぶりのアップルの店内を眺めながら彼女を待った。
数分で奈美はやってきた。
「お待たせ~!雨、強くなってきたよぉ。ミライ、傘もってないでしょ」
「あ、バレた?」
「昔からそうだよねミライは(笑)傘、きらいなの?」
ケラケラ笑いながら奈美も椅子に腰掛けると、ローズヒップティーがふたつ運ばれてきた。
「これでいいよね?」
「うん、ありがとう!」
マスターと奈美も久しぶりの挨拶を交わすと、私たちはとりあえず温かいローズヒップティーを口にした。
「久しぶりだね、アップル」
「ほんとだね。みんなでしょっちゅう来てた学生時代が懐かしいよぉ」
奈美は今日もゆったりとした口調で私を優しい気持ちにしてくれる。
「それでどう、最近?」
「ふふっ、まずはミライからでしょお?離婚して…どう?大丈夫?」
「うん。意外と元気なの」
「それなら良かった。ミライがどんよりしてたら、なんて言って慰めようかと悩んじゃったんだから」
「あはは、ありがとう。むしろ毎日楽しいの。罪なやつだよね」
「んー。当時の瀬川くんとの事は罪だけど、離婚して毎日楽しいのは罪じゃないね」
「言うね(笑)」
「それで、瀬川くんとは?」
「うん、今もちょこちょこ会ってるよ…うん」
「なぁに、なんか言いたそう(笑)」
「ふふっ。…んーとね、ちゃんと付き合おうって言われたの」
「えぇ、そうなの!まぁ、元々好き合ってた2人だしねぇ。独身になったらそういう流れになるか、うん。どおりで、ミライが元気なわけだ(笑)」