不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第9章 悩める恋する30歳
「だけどね、ただ単に…したい、ってだけじゃないの。ミノルが優しいのは私にも恭介にも一緒で、恭介すっごくミノルに懐いてて、別れるとき泣くんだよ」
「そうなのかぁ。さすがだね」
「ミノルの子供は恭介よりもう少し大きいけど、奈美ちゃん、奈美ちゃんってすごい懐いてくれてるの。もうね、正直……幸せだなって、感じちゃうんだよね。旦那じゃないのに…家族じゃないのに…」
「奈美…」
泣きそうな声で話す彼女は、触れたら壊れてしまいそうにか弱く震えていた。
それからしばらく、奈美の背中をさすりながら雨の音を聞いていた。
うつむいていた彼女は目線を上げ、
「ごめんね、ミライ。ありがとう…」
”もう大丈夫”というように何度か頷きながら言った。
「あのね、奈美」
「うん?」
「私が瀬川くんとの関係持って少し経った頃ね。離婚もできないし、瀬川くんと会うのもやめる事できなくって私ってどうしようもなかったんだけど、…そのとき紗奈が言ったの。
”明るく元気にいられるのが1番。瀬川といることでミライが穏やかに過ごせるならそれもいいと思う”って…」
奈美は私を見つめて涙ぐむ。
「変な意味じゃなくってね、もちろん、ミノルくんと関係持てって煽ってるわけでもなくて。ただ…やっぱり紗奈が言うように、奈美にも心穏やかに過ごしてほしいっていうか…」
「うん、…ありがとう。おかしな話だけどね、今はミノルに精神的にかなり支えられてるの。恭介が熱出したときも、旦那より先にミノルに連絡したりして」
「うん」
「でも離婚とかは…考えてないから、やっぱりまずは旦那との関係を見直してまた頑張らないとね…」
「ねえ、奈美」
「ん?」
「飲みに行こう!お酒飲んで、すっきりしよう(笑)」
「なあに、突然(笑)でも…うん、行きたい。久しぶりだなぁ!」
「ミノルくんも呼ぶ?ふふっ」
私たちは次の週末に飲みに行く約束をして、アップルを後にした。
「ミライ、ちゃんと傘持ち歩きなよ~?次の誕生日プレゼントは傘かな(笑)」
クスクスと笑う奈美は昔から、人の道を外れない、真面目で優しい子だった。
きっと今も本気で旦那さんとの関係修復を願っているけれど、どうなるのかは誰にも分からなかった。