不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第13章 叶わなかったキス
その日、私達はあじさい旅行の日程や場所を決め、あとの時間をほとんど映画鑑賞に使った。
3本目の映画を見終わると外は暗く、テーブルの上はペットボトルやコップやゴミが散らかっている。
「なんか、いけないことした気分(笑)」
「たまにはこういうのも良いよな(笑)」
瀬川くんは片付けを手伝いながら時計を見る。
「もうちょいしたら俺帰るけど…なんか要るもんとかある?車あるうちに」
「ううん、大丈夫だよ。そういえば車…やっぱ無いと不便かなぁ。迷ってるんだよね」
「んー…」
瀬川くんの動きが止まる。
「どうしたの?」
「いや…心配だなと思って。けど、平日は俺いてやれないからなぁ。やっぱ不便か?」
「それが、まだ分からないんだよね。スーパーは一応歩いていけるし、仕事の出張は今までも電車だったし…」
「ん。困ったらとりあえず俺に言って。できるだけ毎週こっち帰ってくるから」
「ん…ありがとう」
なんだか妙に”彼氏なんだ”という実感がわいて照れくさくなる。
その後、20時を過ぎて瀬川くんはアパートを後にした。
今までと違い、当たり前のように次の約束が出来ることが嬉しかった。
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私は奈美にメッセージを打った。
[瀬川くん帰ったよ。奈美、大丈夫?]
すると数分で奈美からの返信が届く。
[あとから電話してもいい?]
やはり明日まで誰にも何も言えないのは苦しいのだと悟った。
1時間も経たないくらいの頃、奈美からの着信が鳴る。
「ごめんね、ミライ…明日まで待ちたかったんだけど、…」
「気にしないで。私も待てなくて連絡したんだから。恭ちゃん寝た?」
「うん。旦那はキャンプからまだ帰ってきてない」
「そっか…」
少しの沈黙の後、奈美はぽつりぽつりと話し始めた。
「昨日ね…」
「うん?」
「タクシーに乗って、うちの近くの公園まで送ってもらったの」
一瞬、安堵にも似た感情がわいた。
「うんうん」
「だけど…。だけどね、帰りたくないって、言っちゃったの私…」
嘆くように奈美が言う。