不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第2章 離別
「あはは!そっかぁ~!引越し祝い…ふふっ」
突然の問いかけに、つい何度も笑ってしまう。
瀬川くんはいつもこうして私をなごませ、優しい気持ちに切り替えてくれる。
「あ、キスとかハグとかは無しな。一緒にいる時間とか。すでに沢山あるから(笑)」
--…瀬川くんはあの温泉旅行から帰ってきたあの日、あの夜、私の目の前で紀子に電話をした。
その1週間後には離婚届が受理され、紀子は本人の希望で旧姓の”坂本”に戻ったという事だった…--
引越し祝いは保留にし、瀬川くんとの電話を切ると私は今夜のことを考えた。
しかしフミの考えが分からない以上、どうにも対策しようが無かった。
18時頃、車の音が聞こえ、フミが帰ってきた。
私はリビングの椅子に腰掛け、緊張で大きく鳴る心臓をかかえながら待っていた。
フミはガチャリとリビングに入ってくると私の姿を確し、無言で上着を脱ぐ。
「これ…読んでくれたと思うけど」
「…あぁ、うん」
落ち着いた様子で答え、彼は大きな溜息を吐き出す。
それだけでも拒否反応のようにここから逃げ出したくなるが、今はだめだ。しっかり終わらせなくてはならない。
「…別れたいの。これ、書いてくれる?」
「…」
フミは無言で私の向かいの椅子に腰掛けると、離婚届を手にとってジッと見ている。
「…いつから?」
「え?」
「いつから思ってたの。別れたいって」
「はっきりとは…。でも少なくともここ1~2年は、私たち…夫婦としての関係は崩壊してたように思う」
「…ふ~ん」
私はもやもやする感情を抑えつつ、ジッと座ったまま佇んでいた。
「フミは…思わなかった?冷めきってる関係、とか…」
「俺は別に。夫婦ってこんなもんじゃないのって感じだったけど」
「会話もないのが普通の夫婦って事?」
「俺はもともとそんなに喋る方じゃないし…。むしろミライが変わったんじゃないの?」
たしかにそうかも知れない。でも今となってはもう分からない。
ただ分かることは、フミとはこの先を添い遂げることが出来ない…という事だけだった。
「で、本当に別れんの?」
少しめんどくさそうに問われると、私の気持ちはよりいっそう固まった。