不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第22章 嘘
「ふふっ。素直に甘えといてよ」
「私も瀬川くんに、なにかしたい」
「キスして」
田舎の駅で人通りはほとんどないが、それでも私は一瞬だけ躊躇した。
すぐに背伸びをして口づけると、彼は私の腰に腕を回した。
「次は、あじさい旅行だな」
「うん!楽しみにしてる」
別れが名残惜しく、少しの間意味もなく両手を握り合った。
「それじゃ、行くね」
「おう。連絡して」
やがてやって来た電車に乗り込むときまで、彼は改札の向こうからこちらを見ていた。
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[明日、何時に来る?]
帰りの電車の中で、アンナにメッセージを送る。
[午前中に行ってもいい?]
[うん!お昼は何食べたい?なんか作ろうか?]
[わーい!じゃあ…ナポリタン!]
前回も冷製パスタを作ったのに、またスパゲッティで良いのかな?とも思ったが、普段からアップルで毎回ナポリタンを注文するアンナにとってはきっと元気の源なのだろう。
今回瀬川くんの家や学校であった出来事を思い返していると、あっという間に最寄りの駅に到着した。
帰り道でスーパーに寄り、ナポリタンの材料を買って帰宅した。
私は早速、瀬川くんの学校で開催される誘致イベントのデザインに手を付ける。
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日も暮れてきた頃、携帯が光っていることに気付く。
確認するとコウヘイくんから、[また無視?!俺寂しい!!]とメッセージが入っていた…。
”ただの同級生”という昨夜の会話を思いだし、自分に言い聞かせるように平然を装って返事を打つ。
[ごめんね、ちょっと仕事がバタバタしてて。きっとまた平野がなにか企画してくれるだろうから、そのときはまた]
その夜も、いつものように[ただいま]と瀬川くんから仕事終わりのメッセージが届いた。
毎晩、何度かメッセージのやり取りをするこの時間は大切なルーティンになっている。
彼からの返事を待ちながら夕食やお風呂を済ませ、布団に入る。
今ではそれが当たり前になっていた。