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いつか秒針のあう頃

第1章 1話

ロックを解除して玄関ドアを開けると、見慣れた靴がきちんと揃えて置かれているのを確認する。
カレーの香りがしていて、思わず顔がにやけた。

「智くん、ただいま~~。
 外、寒いわ~~」

部屋に来て待って居てくれた恋人に声を掛けながら、当然いつものように俺を迎える足音が聞こえるものだと思っていたのに。

「…………?」

廊下の向こうのドアが開く気配がしない。
ドアに嵌った摺ガラス越しに灯りは見えているのに。おかしいな。

取りあえず上着を脱いでアルコールのスプレーを使い、先に手洗いと洗面を済ませた。
靴があるのだから居るのは間違いないのだし、あの人のことだから、待っているうちに眠ってしまったのかもしれない。

LDKに続くドアをそっと開けると、愛しい人はソファに座ったままぼんやりしている。
ゆっくりと首が動いて俺を見た。

「翔ちゃん……?」

「ただいま」

「あ、おか、おかえり」

不思議そうに言った後で柔らかく微笑んだ。
良かった、具合が悪いわけではなさそうだ。

「ごめんね、待った?」

「あ、うん、ふふっ。なんかボーっとしちゃってた」

照れたように言って腕を伸ばしてくるから、そのまま引き上げて、立たせたついでに抱きしめた。

「明けましておめでとう。
 ……はぁ、智くんの匂いだ。
 会いたかった~~」

「うん……オイラも」

ふふっ、と笑いながら俺の背中を擦るように智くんの手が動く。

大晦日のライブ以降、年が明けてから顔を合わせるのは初めてになる。
俺の智くんは今年も綺麗で可愛い。
体を離すと嬉しそうに笑ってて、にゅう、と唇が前に出て来る。

一人称がオイラ、ってことは甘えたい気持ちなんだろう。
しばらくぶりだから、もしかしたら淋しかった?

ちゅっ、と短く口づけてから、またぎゅっと抱きしめた。




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