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いつか秒針のあう頃

第2章 2話

「変じゃないよ」

「そう? ふふっ」

別に悲壮感もなく、いつものように柔らかく笑ってるこの人を見つめながら、俺は自分が顔色を変えていないことを願った。
俺が不安を顔に出してしまったら、この人の気持ちが離れてしまいそうで。

「兄さんもご存知の通り、俺なんかワーカホリックだからさ。
 もし俺が兄さんの立場で、今日からは無期限の休み、ってなったら……やっぱり同じようになると思うよ。
 時差ボケって言うかさ」

「ああ、時差ボケか。そっか……。
 うん、そうかも。
 なんか、フワフワしてんだよなぁ……」

「みたいなもんだと思うよ?
 ごめん、わかんないけどさ」

努めていつもの感じで言葉を返すと、智くんは中腰になり腕を伸ばして来て、俺の頭を撫でた。

「ごめん、心配させた。
 オレは大丈夫だよ」

一人称がオレになってる。
俺は再び首を横に振った。

「翔ちゃんとのスピードの差が、また開いちゃうかもだけど」

言われた瞬間ドキッとした。
返事が出て来ない。

元々全くタイプの違う人間で、育ってきた家庭環境も友人の種類も異なる俺達は。
芸能界というクソみたいな世界で共に戦い、生き抜くことで信頼を育ててきた。

貴方は離れ、俺は残る。

きっと貴方は、本来そうあるべきだった姿を取り戻すのに、今、ちょっと移行期間というか。
一時的に現実と噛み合わなくなってるだけなんだろう。
やがて落ち着いたら、新しいリアルに馴染んで行くんだ、そこは心配してない。

ただ、俺は。
貴方の次の世界に。
新しい景色の中に居られるのか?

離れて、遠くなって。
置いていかれるかもしれない。

「翔ちゃん、そんな顔すんなよ」

俺の頭から滑り落ちた手がそのまま頬に触れる。

「……え?」

「明日は休みなんだろ?今日はいっぱい H しよ」

「え? うん……」

見上げた俺を、智くんが優しい顔で見てた。
ニコッと笑って言う。

「今日、オレがさす方ね」

「うん……って、え!? 今何て?」

「オレが挿す方! んふふっ」

両手で俺の顔を挟み込むとムチュッと唇が触れる。

ええ〜〜、マジか……。

そう思いながら、舌が入ってくるのに任せ目を閉じた。




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