居候と実況者が恋に落ちるまで。
第3章 聞こえてこないけど、聴いている
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その日の深夜。一色さんが寝たのを確認した私はまたあのサイトを開いていた。
赤城さんがこっそり教えてくれた一色さんの声が聞ける場所。イヤホンから直接脳に響くその声は、いつも楽しそうで。
なぜか『いいな』と思う自分がいることに気づいた。
『ラッキー!まじありがと!』
そうだ。この"声"は私に向けられたものじゃないから。だから、こんな風に楽しく話す一色さんと時間を共有している誰かが羨ましいのだ。
あ、これ。
新しい動画が上がってる。
いや、違う。これはライブ配信だ。一色さん、もう寝たと思ってたのに。本当に好きなんだな、ゲームもこの場所も。
『…そうだ、この前の配信でトレンド1位取ったらってやつお陰様で取らして貰ったんで、近々#シキの雑実況ってTシャツ作って着るわ。…うん?あー、どっかで実写かぁ、人呼んでカードゲームでもする?』
わ、めっちゃ喋ってる。ジッシャ?ジッシャってなんだろう…。知らないことがいっぱいだ。
『はぁ?出さない出さない料理動画なんて。知ってんだろ、俺の得意料理が炭だってこと。あ、さてはお前ド新規だな?』
一色さん、得意料理炭なんだ…というか炭って料理だったの?
「ふ、ふふ…っ」
なんだろ、直接会話してるわけじゃないから寂しいかもなんて思ったけど知らない一色さんをこっそり知れるのは少しいけないことをしてるみたいで楽しい。
『わーかってるって!約束な、ちゃんと実写やるから!俺は日本一クリーンな実況者だから、そういうのは守るんだよ』
約束か…確かに一色さん夕ご飯一緒に食べてくれるってちゃんと守ってくれたな。最初は静かで怖い人なのかと思ってたけど、本当は優しくて食べるのが好きで私はまだ直接見せてもらえてないけど、よく笑いよく喋る人だった。
そう、思っていたよりこの生活が楽しいと感じている私がいる。
最初は男の人と一緒に住むなんて…と思っていたのに、蓋を開けてみたらそこは新しいことだらけで好奇心が刺激される場所。
もうすぐ仮期間が終わる。
このままで、いいのかもしれない。