テキストサイズ

居候と実況者が恋に落ちるまで。

第1章 事実はゲームよりも奇なり!


「…へ」

何の音もしなかったからまさか家主が自分の真後ろに立っているなんて思いもしなくて、振り返ると出たのは間抜けな一文字だった。

わ、身長がすごく高い人。前髪が長い。
見た目の第一印象はそんな感じだった。

「はい、紗夜はここ。柊真くんはあっち座って」

完全に動きが止まった私は、なんとか無事に顔を出していた椅子に座らせられた。その斜向かいに家主さんを座らせたリンちゃんは満足そうな顔で私の隣に立ってパンっと手を叩いた。

「あちら、私の従兄弟で一色柊真くん。こちら、私の友人で住み込み家政婦候補の高月紗夜。まずは名前の把握よろしくね」

『住み込み家政婦候補』というのはリンちゃん曰く、そう言って面倒くさそうにしていた彼を丸め込むことに成功したらしい。当分の私の肩書きはこれだ。

「よ、ろしくお願いします。一色さん」

「どうも…」

お?背は大きいんだけど猫背なんだな、すごく小さくなって座ってる。リンちゃんが言っていた「猫みたい」がちょっと分かった。

「で、ね!2人のために私が契約書を作ってきたから、全文読みあげるね」

「リンちゃん?」

「弓理?」

ちょっと何それ聞いてないです!契約書とかそんな話だったのこれ?!慌てる私と同じように焦った表情の一色さんを見ると、2人ともリンちゃんの被害者なんだと気づいた。

「一、仮契約期間は1週間とする
一、手を出す場合は互いの同意がある時のみとする
以上!」

「リンちゃん、契約書って知ってる?」

「弓理、熱があるのか?」

リンちゃんは本当に馬鹿になったみたいだ。
仮契約期間というのはまぁ置いといて、2つ目の手を出すっていうのはつまりそういうことだよね?

「紗夜、こういうことは先に決めておいた方がいいんだから。まずは1週間やってみよ?紗夜がここにいるだけで人1人が真っ当に生きていけるようになるんだよ?」

それ本人がいる前で言うことじゃ…。

「弓理。俺はまだ雇うとは言ってないけど」

「柊真くん!柊真くんが紗夜をここに置いてくれなかったら紗夜は家も仕事も失ってあとはもう自分を売るしかなくなるんだって言ったでしょ?見捨てるの、従姉妹の友人を」

「…っ」

喉の音が2つ重なった。

「1週間だけなら…」
「仕事が決まるまでなら…」

ほぼ同時に発せられた私たちの台詞にリンちゃんただ一人が飛び跳ねたのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ