居候と実況者が恋に落ちるまで。
第2章 本当は3人暮し、だったり?
紗夜side
「1日でも早く慣れるように」というリンちゃんの言葉で、夢であって欲しいあの日から数日後。私は既に一色家にいた。
「この部屋、使ってないからどうぞ」
「こんな広い部屋いいんですか?」
「…高月さん今までどんな家住んでたの」
綺麗で広い部屋に思わず言ってしまったけど、流石にあの6畳半のコトリ荘の話は恥ずかしくて笑って誤魔化した。あは、あははは…。
「…給料なんだけど高月さんが前の仕事で貰ってた分払えばいいの?」
「え、や。あの、まだ仮契約なのでいらないです!本契約になってから、私が何かちゃんと残せたらその時にください」
家政婦候補だなんて言って彼を騙しているのがどうにも心苦しくて、私は全力で拒否をした。そう、言わば私はスパイなんだから。
私の任務はこの人に人間的な生活をさせること!
「そう。じゃあ、これは掃除道具とか家にないから買う時に使って。掃除機は重いからネットで注文した、今日これから届く予定」
「はい、分かりま…?」
渡された封筒がやけに膨らんでませんか?
「…生活費。俺はいいから好きな物食べて」
「だとしても多くないですか?っていうか私作ります、一色さんの分も。そのために私ここにいますし」
「いいから、掃除だけしてくれれば」
「でも、あの…」
頼まれたから、とは言えない。そして私は彼の冷たい声と無表情な顔が苦手で、強くも言えない。
「…分かりました。お掃除頑張りますね」
猫みたいで、少しは大丈夫かなって思ったのに。
やっぱり男の子が分からない。
「…俺は仕事やってるから配達来たら下に取りに行って。それと、仕事部屋には入らないで」
「はい、」
"お仕事って何されているんですか?"
出かかったそれを慌てて飲み込む。そんなの聞いてどうするの。リンちゃんも在宅ワーカーって言ってたしそれでいいでしょ。
「なに?」
彼の顔をじっと見てしまったのがいけなかったのか、不機嫌そうな声に肩がびくっと跳ねる。
「い、いえ、お仕事頑張ってください」
私の言葉に返事はなく、彼はあの扉の向こうに消えていった。
どうしよう、思ったより、息が詰まる。