ドSな兄と暮らしています
第3章 たった1人の家族
……しお…、汐夏、汐夏。
「汐夏!!!」
「うわぁ!!!」
飛び起きる。
息が上手くできなくて、肩で呼吸をする。まるで水中から上がってきたばっかりの時みたいな苦しさで、呼吸が全然整わない。
ここは……あぁ、家か。
よく見知っている景色なのに、一瞬ではどこだかわからなかった。時計を見ると、朝の6時半。
私、寝てたのか。
「あわ……えっと、兄ちゃん……か」
横を見ると、心配そうな顔をした兄ちゃんがいた。
「汐夏、大丈夫か? 泣いてたの……?」
「大丈夫、だと……思う」
兄ちゃんは、そっと私の頬を触る。兄ちゃんの手が、私の冷えた涙を拭っていく。
兄ちゃんの手は温かくて、バクバクとうるさかった心臓の音がおさまっていく。
背中にじっとりと、変な汗もかいていることに気づいた。
「熱はないか?」
兄ちゃんが私の目を見ながら、大きな手で私の額を触る。その後に、優しく両手で首の近くや耳の下を触った。
兄ちゃんは、本気で心配している目をしていた。
いつも、私の体調のこととなると過保護なくらい気にするのは、兄ちゃんがお母さんを病気で亡くしているのと関係があるのかもしれない。
でも、ちょっと恥ずかしいな……
目を合わせて、触れられているのは少し緊張してしまう。
おさまってきたはずの心臓の音がまた速まるのを感じた。
「ないよ、大丈夫だよ」
頬が赤らみそうになって、俯いた。
「うん、なさそうだね。起こしに来たらうなされてたから、びっくりした。まあ、まだ早いから、ゆっくり準備して下降りてきなね」
兄ちゃんはそう言い残して、階段を降りていった。
最近、同じ夢を見る。
私は前に住んでた家の近くにいて、若い頃の母と小さい頃の私を遠くで見ている。
母に気づいて欲しくて、夢の中でいいから話したくて、叫ぶけれど、全然声は届かない。
この夢を見た日は、一日中ぼんやりとしてしまう。
私は、起き出すと布団を畳んで、鏡を見た。
目元に残る涙のあとを消すように、パジャマの袖で拭う。
顔を洗ってこよう……。
ぼんやりとするはずの今日。1日、無理をするのはやめておこうと、なんとなく思った。