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ドSな兄と暮らしています

第3章 たった1人の家族

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それから毎日少しずつ、兄ちゃんにはあの日の事を、自分の言葉で説明していった。
兄ちゃんは、怒りもせず、笑いもせず、急がせず、どの言葉も真剣に受け止めながら、私の話を聴いてくれていた。
自分の声で話す方が、自分がどう思ったかを整理することができて、混乱もなくなっていった。

学校には次の日から登校した。
どうしても、あの日教室を片付けてくれた仲良しの友だちに、直接お礼を言いたかったからだ。
だけれど、教室に入って、お礼を言う、それだけで心がいっぱいいっぱいになって、昼前には家に帰ってきてしまった。

兄ちゃんは、そんな私をずっと見守ってくれていた。

「自分で行くって決めて、えらいよ。でも俺は、今は学校には行っても行かなくてもいいと思う。すぐに帰ってきてもいい。無理して心を壊すくらいなら」

学校から直ぐに帰ってきて、布団に包まる私の頭を撫でながら、兄ちゃんはそう声をかけた。

それでも私が学校に行くのは、卒業するためだった。
ちゃんと通って、きちんと次の進路を決められるようにしたかった。ただ、それだけだった。

学校でいちばんお世話になったのは、養護の先生だ。
「途中で無理になったら保健室に来ていいよ」
と言ってくれていた。学校にも居場所があると思うと、気持ちが少し楽になった。


1週間かかって、ようやく1日学校にいることができた。


あの日から2週間経つ頃には、もう完全に元の日常生活に戻っていた。
ばたばたと目まぐるしい朝を迎える。

「兄ちゃん、行ってきまーす!!!」

「待て、しお! おにぎり持ってけ!!」

「ありがとう!」

兄ちゃんは、おにぎりを受け取る私の頭をなでながら、目を覗き込む。

「いってらっしゃい」

「行ってきます!!」

元気に家を飛び出していく私を、兄ちゃんは笑いながら見送ってくれた。
青空の下で、懸命にペダルを漕いで学校へ向かった。

大きく息を吸うと、秋の匂いが胸いっぱいに流れた。



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