ドSな兄と暮らしています
第1章 プロローグ
「俺が引き取る」
若い男の人の声が、その場の空気を切り裂くように言った。はっきりと、何かを覚悟した声だった。
静まり返っていた襖の向こうが、ざわめく。蜂の巣をつついたようだった。
「若いのに」とか「信じられない」とか、今までこんなにたくさんの人が中にいたのかと思うほどの声が聞こえた。
「おい! 子どもが子ども育てるようなもんだぞ、わかってんのか?!」
怒鳴り声が響き、またその場は静まり返る。すかさず、若い男の人の声が続く。
「さっきから話聞いてりゃ、どいつもこいつも。いい大人ばかりなのに、解決しないような話をうだうだと。あの子のことを考えた選択ってなんだよ。みんな自分のことばかり。子どもだとしても、一人の人生がかかってるんだぞ。その事実を受け止めて、あの子のために誰も考えないなら、俺が一緒に暮らす」
落ち着いて聞こえたその声には、怒りがしっかりとこもっていた。
言い放ったすぐあとに、背を向けていた襖が、ぴしゃりとあいた。
「ずっといたんだろ。傷つけたね、悪かった。ごめんよ」
私は、振り返る。
まぶしかった。
泣いて泣いて、泣きつくしたはずの頬に、もう一つ、涙が流れる。違う、違うよ。
私は、この人に傷つけられたんじゃない。
その人は、この場にいた大人の代表として、謝っていた。10歳の子どもの私にでも、傷つけることをしたと、しっかり目を見て謝る。
私を救ってくれた人は、そんな誠実な人だった。
「汐夏」
しゃがみこんで、私の頭を撫でたその手は、大きくて温かかった。
――王子様が来たんだ。
家族を失ってから初めて、心の居場所ができたような気がした。
若い男の人の声が、その場の空気を切り裂くように言った。はっきりと、何かを覚悟した声だった。
静まり返っていた襖の向こうが、ざわめく。蜂の巣をつついたようだった。
「若いのに」とか「信じられない」とか、今までこんなにたくさんの人が中にいたのかと思うほどの声が聞こえた。
「おい! 子どもが子ども育てるようなもんだぞ、わかってんのか?!」
怒鳴り声が響き、またその場は静まり返る。すかさず、若い男の人の声が続く。
「さっきから話聞いてりゃ、どいつもこいつも。いい大人ばかりなのに、解決しないような話をうだうだと。あの子のことを考えた選択ってなんだよ。みんな自分のことばかり。子どもだとしても、一人の人生がかかってるんだぞ。その事実を受け止めて、あの子のために誰も考えないなら、俺が一緒に暮らす」
落ち着いて聞こえたその声には、怒りがしっかりとこもっていた。
言い放ったすぐあとに、背を向けていた襖が、ぴしゃりとあいた。
「ずっといたんだろ。傷つけたね、悪かった。ごめんよ」
私は、振り返る。
まぶしかった。
泣いて泣いて、泣きつくしたはずの頬に、もう一つ、涙が流れる。違う、違うよ。
私は、この人に傷つけられたんじゃない。
その人は、この場にいた大人の代表として、謝っていた。10歳の子どもの私にでも、傷つけることをしたと、しっかり目を見て謝る。
私を救ってくれた人は、そんな誠実な人だった。
「汐夏」
しゃがみこんで、私の頭を撫でたその手は、大きくて温かかった。
――王子様が来たんだ。
家族を失ってから初めて、心の居場所ができたような気がした。