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ドSな兄と暮らしています

第6章 汐夏の挑戦

兄ちゃんは、私の方を向くと、力強く頷く。

「学費の面でも色々考えたな。数学と理科は頑張れそう? 1次試験で必ず使うようになってくるはずだ」

「うん、それは頑張る。兄ちゃん、数学教えてくれる?」

「それは構わないよ。ただ今まで以上にみっちり見ることになるけれど」

兄ちゃんは、ニヤリと笑う。兄ちゃんとみっちり数学の過酷さは何となく想像できる。想像はしたくないけれどもね……

「あと、詳しいこと聴きたければ真希さんにきいてみなよ」

意外な人物の名前が登場して、私は首を傾げた。

「真希さん?」

「うん、真希さんは臨床心理士の資格持ってるし、病気になる前はゼミまで持って大学で学生に教えてたよ。今は仕事セーブしてる。非常勤の週1で大学の講義しながら、精神科でカウンセリングもしてる」

「え!そんな身近に!! 」

真希さんには来週、兄ちゃんと会いに行く予定だったから、ちょうど良かった。
少し先が見通せるようになった。私の周りには心強い支えになってくれる人がたくさんいることに気づかされる。

私は持っていたボールペンで第1希望の欄に「文系国公立大学 4年制」 と記した。

「ダメだったらどうしよう……」

なんだか、文字を見ていると私には無理なんじゃないかって気持ちになってくる。
元々成績はクラスで中の中。数学と理科はめっきりだめだし、今まで勉強を必死で頑張ったことなんてない。
既に弱音を吐くと、兄ちゃんは言った。

「挑戦くらいに考えな。大丈夫だ。失敗しても死なないから。それより、これからの1年どうするかだよ」

「うん」

兄ちゃんの言葉に励まされる。
なんか少し、スイッチが入った気がする。

「ダメだったとしても、一緒に考えるから。やりたいことやってみようよ」

私の目を見てそう言った。
私は兄ちゃんに、自分からやりたいと思った事を初めて口にした。兄ちゃんはその事に気づいている。

ちょうど鍋がグツグツと音を立てて出来上がる。
ホカホカの鍋の湯気に誘われるように、私のお腹が鳴った。

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