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ドSな兄と暮らしています

第6章 汐夏の挑戦


そうしてやって来た、1次試験の当日。

「……兄ちゃん……緊張しすぎてなにも胃に入らないよ……」

私は思った以上に早く目覚めてしまった。
支度して1階に降りて、朝食を摂ろうとしても、胃袋に何も入る気がしない。

「味噌汁かあったかいお茶だけでも飲んだら? いまは無理に入れなくていいよ、自然とお腹減ってくるから。またおにぎりとか用意しとくから、食べられるタイミングで食べなよ」

「ありがとう、そうする……」

私は味噌汁と、味噌汁に浮いていた豆腐を少し食べた。体が温まると、心も少し落ち着いてくる。
兄ちゃんは、私の表情が和らいだところで、話をした。

「大丈夫そうだね。汐夏、いつも通りだよ。模試受ける時みたいな気持ちで受けていいよ。いつもみたいに、全力な」

兄ちゃんは味噌汁を啜る私に微笑んだ。

その瞬間、心が凪いでいた。

ゆったりとした気持ちで、本番と向かい合う覚悟ができた。
……大丈夫だ。だって、今までも1人じゃなかった。
体のこわばりが解けて、緊張も少し薄れていく。

玄関で靴を履く。
今日はいつも以上にゆとりがある。

「はい。これ、おにぎりね」

「ありがとう」

両手で受け取る。
兄ちゃんは、私の頭を、3回撫でた。

「行ってらっしゃい。帰って来る頃には家にいるから。俺はここに居るからね」

「うん、行ってきます」

兄ちゃんは、玄関を出る最後の最後まで、「頑張れ」とは言わなかった。「応援してる」とも言わなかった。

言わずとも、わかる。

兄ちゃんはいつも通り、帰ってきたら家にいる。
それが心の支えだった。

今日が、新しい私の道をつくる日かもしれない。
そう思うと少しわくわくできた。

ビビってばっかりじゃいられないな、と、一歩一歩、踏み出す度に緊張はなくなっていった。

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