
ドSな兄と暮らしています
第2章 生活
兄ちゃんは私に料理を教え始めてから3か月は、わたしが包丁や火を使う時は必ずそばに居た。
というのも、兄ちゃんがお風呂に入っている間に、わたしがじゃがいもの皮をむいていたとき、指をさっくり切ってしまったからだ。
そんなに痛みは感じなかったけれど、血が止まらなかったのがとても怖くなったのを覚えている。
当時、何をしていてもあまり声を出せない子どもだった私は、兄ちゃんが風呂から上がってくるまでティッシュで指を抑えていた。
止まらない血に怯えて部屋の隅でしくしく泣いていたのだった。
程なくして兄ちゃんが風呂から上がってきて、その惨状を目の当たりにする。
「汐夏!? どうした!?」
あわてて私に駆け寄って声をかけた。
血の付いたティッシュをそっと外す。
「切っちゃったのか、ちょっと待っててな」
兄ちゃんは、救急箱を持ってきて、消毒液とガーゼを取り出した。
「ちょっと染みるな、ごめんね」
切り傷を消毒液すると、ツンっと痛みが走って、小さな声が出た。素早くガーゼで保護して、包帯を巻く。
止血してもなお、声もあげずにぶるぶると泣いていた私を優しく包み込むように抱きしめた。
とん、とん、とゆっくりとしたリズムで背中をさする。
石けんのいい匂いがして、温かくて、震えが止まっていった。
それは昔、怖い夢を見て泣いていた時に、お母さんにしてもらったのと同じだった。
「もう大丈夫だから。1人にして本当にごめんな。いっぱい血が出て怖かったね」
腕の中に収まる私に、優しく言う。
「怖い時や痛い時、助けて欲しいときは、ちゃんと言うんだよ。例え兄ちゃんがそばに居なくても、今みたいにちゃんと来る。汐夏を助ける。学校でもそうだよ。汐夏の周りにいる人が、必ず助けてくれるからね」
そう言われて、やっと嗚咽を漏らせるようになった。
兄ちゃんは、厳しいけど優しい。
心を失いかけていた私のことを、しっかりと支えてくれた。
そして、心の中に必要なものを、もう一度入れてくれるのが、兄ちゃんだった。
