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ママ、愛してる

第5章 瀬戸内

ドンドン!
ドンドン!

「藤川さん、そろそろ起きないかい?」

僕を呼ぶ声がする。

目を開けて、天井を見る。

見覚えのない、板張りの天井に古風なデザインの蛍光灯。

ここは?

一瞬、今の状況が把握出来なかったが、

すぐに記憶が蘇ってきた。

「藤川さ~ん」

「はい。今、起きます」

僕は返事を返した。

「朝ご飯、出来とるけん、降りておいで」

「はい、すぐに行きます」

ドアの向こうで足音が遠ざかる。


今、何時だろう?

枕元の携帯を手に取る。

8時30分。

喫茶店は、モーニングサービスの真っ最中。

ママは、狭い店内の客席とキッチンを蝶のように飛び回っているだろうな。

考えながら、ズボンを履いてカッターを羽織った。

部屋を出ると、階下から味噌汁の香りが漂って来た。

それに引き寄せられるように、僕は階段を降りた。


「おはよう」

人の良さそうなおばさんが、タオルと歯ブラシを差し出しながら、笑顔で言った。

「朝ご飯出来とるけん、顔洗ってらっしゃい」

「はい、ありがとうございます」
それを受け取り、僕は洗面所に向かった。


食堂に戻ると、玉子焼きと焼き魚、漬物に味付け海苔と、朝食の定番が並んでいた。

「今、味噌汁注いであげるけん」
おばさんが言う。


湯気を立てている味噌汁を一口啜った。

ワカメと豆腐のシンプルな味噌汁は、ママの作るのと同じ香りがする。

僕の空腹の胃袋と、疲れきった心に滲みわたった。

「いりこ出しですね?」

僕が言うと、おばさんが顔を綻ばせた。

「ようわかったねえ。お兄さん、こっちの人?」

「いいえ。でも、母が此処の生まれなんです。いつも、味噌汁やうどんだけは、市販のだしの素じゃなくて、いりこで出汁を取って作るんです」



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