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変態ですけど、何か?

第9章 診療過誤 ~秋野玲子とのこと~

ベッドに横になり、2人で夕日を眺めながら、玲子が言った。

「里帆、今日はありがとう」

「そんな、ありがとうなんて!当たり前でしょう」

「嬉しいよ」

玲子は一呼吸おいて続けた。


「あのね、これから当分の間、里帆とは逢えなくなるかも知れない」

「当分って、どのくらい?」

玲子はあたしの髪を撫でながら言う。

「私にもわからないわ。だからね、里帆は里帆の人生を生きて」

「嫌だよ!あたし、待ってるから、時間が出来た時でいいから、逢いたいよ!」

あたしは、玲子の胸に顔を埋めて、泣きながら言った。

玲子は嗚咽するあたしの背中を、優しく撫でてくれた。

「ねえ、里帆」

「なあに?」

「音楽の先生は、今でも色々教えてくれるの?」

玲子の言葉の意味、あたしは、理解していた。

「教えてくれるよ。でも、玲子は玲子なの。先生じゃない!」

クスッと笑って、玲子は言う。

「里帆は欲張りだねえ」

「でも、・・・」

あたしは、言葉が出ないでいた。

「わかったわ、里帆。逢えるようになったら、必ず連絡するから」

「約束だよ!玲子!」


玲子は答える代わりに、深く、長いキスをしてくれた。


あたしが帰るのを、玲子は部屋の入り口で見送った。
「ごめんね、今日はここで許してね」

そう言って、玲子は封筒を差し出した。

「これ、今日のタクシー代よ」

明らかに、タクシー代より遥かに多いことが、世間知らずのあたしにだってわかる。

「こんなの、要らない!」
あたしが押し返すと、玲子は言う。

「いいから、受け取って。その代わり、私がこの先、逢いたいって連絡したら、そのお金で飛行機でも新幹線でも乗って、逢いに来て欲しいの。
きれいな服を買って、精一杯おしゃれしてね」

あたしは、頷いた。

「必ず、逢いに行きます」

「じゃあ、またね」

玲子はどあを閉めた。

ドアの向こうから、玲子の嗚咽が聞こえていた。

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