無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

惜しみながら猫と別れて、会社へ出社すると、同期や先輩、上司に挨拶を済ませる。

｢すいちゃん、おはよう｣

｢あ、先輩、おはようございます｣

こんな感じでフロアの人たちに声を掛けられながら、タイムカードを押す。宇吹の吹から取って、同期や先輩からは｢すいちゃん｣と呼ばれている。

花実はデスクのパソコンを立ち上げると、お手洗いに席を立った。
フロアの扉を押し開ける。

廊下に出ると、ちょうど扉の前には身長180cm越えの大きな男性が立ちはだかっていた。

｢おおう……あ、宇吹さん、おはようございます｣

｢ひっ、わっ、びっくりした。おはよう、角村くん｣

ただ、同期の中でも1人だけ、花実を｢宇吹さん｣と呼ぶ人がいる。それがこの大柄の彼、角村楓(かどむら かえで)だ。

彼は、大柄の割には威圧感がなくて、存在感もそこまで濃くはない。

物腰の柔らかさから、『角を立てない角村』として先輩や上司からの評判を得ている。何となく、難しい商談に先輩に連れて行かれることが多い彼は、それゆえの経験値か、仕事も早くて重宝されている。