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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

「それとね、絶対に私たちが出来ない事。
利用者さんの寿命を延ばすことよ。
ここに来る利用者さんは、必ず近い将来、亡くなっていく。
一時的に、ADL(日常生活のレベル)が上がっても、完全に治癒することはない。
元気そうに見える山田さんみたいな利用者さんでも、朝、起こしに行ったら亡くなっていることがないとは言えないのよ。
だから、後悔がないように、私たちは日々の介護にベストを尽くしてる。
今、ここにいる時間を、満足して、楽しく過ごしてもらう事が、私たちのいちばん大切な仕事だと思うの。
それ以上でも以下でもないわ」

「わかりました」

私は、答えた。

人によって、考え方はさまざまだ。

けれど、宮沢施設長の話は、私の心を少し楽にしてくれた。



1ヶ月後。
入院していた田辺さんが、特別養護老人ホームに入所が決まったと、宮沢施設長から聞かされた。

これから田辺さんは、瑞祥苑を利用することもなく、その寿命を終えるまで、その施設で過ごすことになったのだ。

特別養護老人ホームは、入所が困難で、多いところでは百人単位の待機者がいる。
そこに入所出来た事は、介護に携わる家族にとってはありがたい事だ。
それが、彼にとって、幸せな事なのかどうかは、本人にしかわからない。

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