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ユリの花咲く

第1章 プロローグ

通所介護施設『瑞祥苑』は、利用者の宿泊も受け入れているデイサービスである。

そもそもデイサービスというのは、支援や介護が必要になった老人たちが一斉に集い、
介護士の支援を受けながら、入浴、食事、レクリエーション等を行う施設である。


細かな内容は、それぞれの施設により特色があるので、一言では言えない。
例えば、機能訓練に特化した施設もあれば、温泉を売りにしている施設もある。

ただ、ほとんどの施設では、先に書いた、入浴、昼食、レクリエーションの三項目と、朝のバイタルチェック(体温、血圧等の計測)は行われている。

一日のタイムスケジュールも、各施設とも似たようなもので、
朝、送迎車に乗って施設に到着すると、バイタルチェック。
午前中に、その日の希望者の入浴があり、12時には昼食。
午後には、レクリエーションやおやつ等があり、夕方になると、また送迎車で自宅に帰っていく。

利用条件は法律で決まっていて、毎日のように訪れる人もあれば、週に一日の人もいる。
その辺りの区分は非常に複雑で、数年毎に改正がある。
また、この物語の進行には殆んど関係ないので、ここでは割愛する。


さて、瑞祥苑のようなお泊まりデイサービスというのは、デイサービスの中では特異な形態である。

通常、デイサービスは昼間だけのもので、夜間は活動していない。

ところが、どういう経緯かは知らないが、
何人かの利用者を宿泊させるサービスを始めた。

理由はさまざまで、
例えば冠婚葬祭等で一家で田舎に帰るが、認知症の老人を連れてはいけない、とか、
在宅介護をしている家庭で、たまには気分転換したいなど、多岐にわたる。
ただ、宿泊する老人たちの大部分に共通しているのは、
本人が望んだからではなく、家族(介護者)の希望でそうしている、という事だ。

まあこれは、お泊まりデイサービスに限らず、老人ホーム全体に言える事ではある。
核家族化が常態となっている昨今、そうならざるを得ない。

認知症を患い、何をするか想像もつかない老人を、家族だけで介護するのは、現実的に考えて不可能に近いからだ。

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