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ユリの花咲く

第1章 プロローグ

今の日本は、介護士不足で四苦八苦している。

超高齢社会と医療の進歩で、老人はどんどん増えていく。なのに介護士の成り手がいない。なっても定着しない。

それは、何十年も前からわかっていたのに、政府が何の施策も取ってこなかったからに他ならない。

老人の割合が増えると言うことは、働き手が減ると言うことだ。その中から、介護従事者を増やすことなど出来る訳が無い。
子供が考えてもわかる理屈だ。

こんな社会構造になってしまってから、いくら考えても解消する方法などない。

その辺りの話は、書き出すとキリがないので、これ以上はやめておこう。



少し話を戻すと、
介護士の成り手がない、なっても続かないと書いた。
理由として、待遇面が良くいわれるが、それだけではない。
理想をもって働いている人も多くいる。
なのに辞めていくのは、
それは介護士の仕事が、余りにも過酷だからだ。
うまく立ち回って、たいした仕事もせずに、楽をしている者も確かにいる。

けれど、多くの介護士は、懸命に仕事に向き合っている。
だが、先にも書いたが、利用者の多くは、
本人の希望ではなく、介護者の都合でそうしているという事だ。

望まない事を他人にやらせるほど、困難な事はない。

自宅に寝床があるのに、誰がわざわざ余所で寝たいだろうか?旅行でもないのに。

家には使いなれた風呂場があるのに、誰が他人の入った風呂に入りたいだろうか?温泉でもないのに。

それらの矛盾を抱えて、なだめたりすかしたりしながら、介護士たちは日々の業務を遂行しなければならない。

判断力の残っている人が相手ならば、手を尽くして説得することも可能だ。

けれども、介護施設の多くの利用者は、認知症や統合失調症等の疾患を抱えている。

正常な判断力、思考力、近似記憶が欠如してしまった人達に、どうやって説得するのか?

例えば、入浴を嫌がる利用者を何とか説得した。
しかし、一度は納得してもらっても、居室から浴室への数分の間にすっかり忘れてしまうのだ。

浴室の入り口で立ち止まると、『風呂は家で入るから、ここでは入らない!』と、ごね始める。
こうなってしまうと、テコでも動かない。

この後限られた時間内に、何人もの入浴介助がまっている。もう一度のんびり説得する余裕など、ない。



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