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スローラブ

第1章 変わった人


「あの、ほんと、ありがとうございました。あと、遅くまですみません」

 警察署を出たのはすでに深夜1時前だった。お隣さんは先に聴取が終わっていたらしいけど、私が終わるのも待ってくれていたみたいだ。一緒に警察署を出て歩く。遅くまで迷惑かけちゃったな……。

「いやー、無事でよかったほんと」
「何かされてたんですか?」
「え?」
「すごく……その、強かったから」
「あー……、昔ちょっと武術を」

 武術っていうと、空手とか少林寺拳法とか、そういうのだよね?そういうのって護身術に使えるっていうもんね。私も習おうかな。

「あ、そういえば忘れ物って……」
「ああ、一階のポストに忘れたんだよね。今日大事な書類届く日だったの忘れててさ」

 もしお隣さんが忘れ物をしていなければ。その忘れ物が一階ではなくどこか他の場所にあったなら。自分は今頃どうなっていたのかと思うと、恐怖で体が震える。それを見ていたらしいお隣さんは、頭にポンと手を乗せてきた。

「嫌なこと考えずにさ、助かってよかったって思おう」

 ……すべては偶然。どこかで何かがずれていたら私は無事じゃなかったかもしれないけれど、偶然でもすべてが重なり合って私は今こうして歩いている。

「ほんと、ありがとうございました……」
「いーや。今日は帰ってゆっくり休んで」

 あぁ、いい人だな。
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