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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第6章 メゾンボナール305号室

「どうして眠れなくなったの?」

春ちゃんの問いかけに答えると、また思い出してしまいそうで、口を結んで、首を横に振ることしかできなかった。

「……なんか、思い出しちゃったか」

コクッと首を縦に振る。
声を出す代わりに、布団の中で、両手を動かした。2人がそこにいるという実感が欲しくて、手を伸ばす。

左手で春ちゃんの手を探し、右手で優の手を探して、握りしめた。春ちゃんの手は、スラッとした長い指の手で、優の手は厚くて大きな手だった。

優は驚いたように目を開ける。
春ちゃんは、わたしの手をしっかりと握り返した。
2人の手は同じくらい温かくて、ほっとしていた。
わたしはこれで充分安心してしまい、眠りそうになっていた。

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