テキストサイズ

優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第8章 本当の話をしよう

「はぐれるなよ。迷子になったら大変だからな」

そう言うと、優は左手をわたしに差し出してきた。

「ほれ、手繋いで」

その大きな手に、戸惑いながら断りを入れる。

「……繋がなくても、いなくならないよ」

なんとなく恥ずかしくなって、優の左手から目をそらした。

「だめだ。昨日足パタパタして飯進まなかったやつは信用ならん。春斗にも頼まれてんだ。絶対咲とはぐれるなって」

「もー、春ちゃんまで……」

どうやら、優の手を握らないと歩き出さないらしい。
渋々と、その大きな手に掴まる。ぎゅっと握りしめると、優しく握り返してきた。
優は、わたしのことを気にしながら、その人混みの中に足を踏み出す。
わたしはとりあえず、お祭りの空気の中に、身を置いてみることにした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ