
優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第8章 本当の話をしよう
「……だから、やめた。俺は逃げた。今でも、逃げてる」
花火の音が鳴る。一層のこと、全てかき消してしまえと思った。
俺は力無く笑いながら、咲のことをみた。
咲は、自分のつま先をじっと見つめて、話を聴いていた。少し考えた後に、顔を上げた。
話を聴く前と、同じ目をして、真っ直ぐと俺の目を見ていた。
「春ちゃんは……逃げてないよ」
驚いて、咲の顔を見つめた。
大人びた表情をした咲がいる。
その目の中には、いままでのたくさんの辛い記憶を宿しているようだった。
そうか、この子は……。
弱くない。弱いはずないのだ。
あの酷い地獄を、生き抜いてきた子だ。
俺や優の前で、どれだけ子どもっぽくても、嫌だとごねることがあっても。
