優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第9章 アメとムチと無知
咲が立てている寝息に合わせて、ゆっくりと頭を撫でた。
一緒に暮らして数ヶ月。
少しずつ、咲の中で止まっていた時間の流れを感じる。自分の思うままに、やりたいことを伝えたり、言葉を口にしたりする。嬉しい、楽しいと感じることに精一杯心を傾けて、笑顔を見せる。
……本来、14年間でしてくるはずだった経験を、時間を進めるように、少しずつ成長していることを実感する。
優と俺はその様子を見守っている。少しずつ、でも成長の速度は遅くない。
「……その時の為に、触り方、教えておくのか?」
優は咲に、ズボンを履かせ終えると、咲を布団の中に入れた。優と俺の中では、咲はまだまだ子どもだ。
でも今の咲だけじゃなくて、今後の咲のことも見てあげなければいけない。
起きない咲の寝顔をふたりで眺める。俺は静かに頷きながら言った。