
優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第10章 夏の訪れ
「俺はここにいるよ、いってらっしゃい」
そう言うと、春ちゃんは日陰で横になった。
「運転、慣れないから、疲れたんだろ?」
優が心配そうに春ちゃんを見る。
「……少しだけ。預かる命が増えたからね」
「高速、意外とスピード出てたけどな」
「……ふふ、バレてた?」
春ちゃんは、言いながら目の上にタオルをかけた。本格的に寝るらしい。寝る寸前、春ちゃんはわたしに言った。
「咲、深いとこ行かないでね。体育おまけで3の子がちゃんと泳げるとは思えない」
「なっ……!」
横になった春ちゃんに、金槌と言い当てられてむくれる。
確かに泳げないんだけれども。
「冗談抜きで溺れるから、浅瀬で水浴びだな」
大きい波、小さい波と繰り返されるのを見ていると、さらわれる気がして、端から泳ごうとは思えなかったので、それでいいと思った。
優に手を引かれて、ゆっくりと波に近づく。
わたしは初めて、海水に足をつけた。
