優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第10章 夏の訪れ
「春ちゃん、飲み過ぎだよ。拭いてあげようか?」
「ありがとう、咲、優しいね」
酔っているとはいえ、初めてみた春ちゃんの涙が、わたしの程遠い未来の結婚のことで、少し嬉しかった。
春ちゃんは、ティッシュで目元を拭ったあとに、わたしのことをじっと見つめた。
「最初はさ、優の妹とか、生徒としての方が強かったんだけど。最近ね、娘としてしか、考えられないんだよ。俺、血の繋がった子どもとか、いたことないけどさ」
潤んだ目で笑う。わたしは、アイスで冷えた手で、春ちゃんの赤くなった頬に触れた。
「咲の手、気持ちいいね」
春ちゃんが、わたしの手を包むように触れる。
「いつだか、バージンロードは3人で歩くって決めたもんね」
言いつつ春ちゃんが優の方を見る。振り向くと、優まで目元を抑えていて、わたしたち2人は目を見開く。