優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第11章 落し物に気づく時
「春斗」
優が、春ちゃんの名前を呼ぶ。『言い過ぎだ』そう言いたそうな名前の呼び方だった。
春ちゃんを本気で怒らせた。
背中に変な汗が流れ落ちる。
返す言葉がなくて、ぽたぽたと涙が零れた。
早乙女先生の治療のときに、ぎゅっと目をつぶって、わたしの手を握っていた春ちゃんのことを思い出す。
浅はかな考えとわかっていながら「やりたくない」と口にするしかなかった自分と、そこまで言われないと決心がつかない自分が嫌になっていた。
春ちゃんが怒るのは、わたしがこの治療の必要性に気づいた上で、わたしが自分から治療に向き合うことを求めているからだ。