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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第11章 落し物に気づく時

「明らかに、春斗が優しくなってから、咲は安心してたしな」

優はすこし寂しそうな笑みを浮かべながら、咲と、咲の頭を撫でる俺を見た。
俺に向き直ると、静かに低い声で言う。
優の目を、しっかりと見返した。

「……春斗、焦るなよ。もう医者じゃない春斗を巻き込んで、悪いと思ってる。でも咲にとって春斗は精神的支柱だ。家で治療を続けるには、必要不可欠なんだ。すまんな」

優は、わかっている。
俺が咲の治療に関わることが、つらくなってきていることを。家での治療も、咲の前では平気なふりをしている。
でも、早乙女先生のところで機械を使った時、つらくなって思わず目を閉じたこと。咲には見られていたかもしれない。
あの子は敏い。大人の機微も敏感に察する。

「俺は、大丈夫」

他の誰でもない、自分に言い聞かせるように呟く。咲の寝顔を見ながら、心の中で何度も咲に謝った。

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