優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第11章 落し物に気づく時
井田先生は、お腹を押さえて冷や汗をかくわたしを、ソファに座らせる。
「薬、これで大丈夫?」
水野木先生が、井田先生に確認する。
井田先生はソファで横になってしまいそうなわたしをしっかり抱きながら頷く。
すぐに薬を飲まされて、ベッドに横になった。
安心すると、痛みが徐々に柔らいでいく。
「白河さん、ちょっとごめん」
井田先生は、ベッドの上でうずくまるわたしのお腹を、制服の上から触れた。
触っても、痛みが酷くなることはなかった。
「多分、大丈夫。寝ていれば治ると思うんだ。生理の初日で立ちっぱなしは、少しきつかったね」
言いながらわたしに声をかける。
それは半分くらい春ちゃんで、井田先生だった。
わたしは病院行きにならなかったことにほっとしつつ、目を閉じた。
「少し寝ていいよ」
井田先生の声に頷いて、少し眠ることにした。
目を閉じると、わたしを抱きとめた、あの男の子の綺麗な瞳が鮮明に思い出されて、深呼吸を繰り返す。
井田先生は、そんなわたしのことを心配して、背中を何度か撫でてくれたが、上がった心拍数は、なかなか落ち着いてはくれなかった。