テキストサイズ

優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第11章 落し物に気づく時

「やってみる?」

角村さんは頷いて、恐る恐る手を伸ばす。

「怖いって思うと、伝わっちゃうから、リラックスするといいよ」

アドバイスをすると、彼女の表情が和らいだ。猫は指先に鼻先を付けて、頭を擦り付ける。

「わっ、触れた」

角村さんが驚いて、静かに声を上げる。
わたしはその横で笑みをこぼした。なんとなく、わたしと井田先生で、最初にお世話を始めたことを思い出したからだ。

「すごいね。わたしは最初、相手にされなかったの」

「ううん、白河さんが一緒にいるから」

わたしは空いていた皿にキャットフードをザラザラと入れた。
相変わらず、猫は人間には目もくれぬ勢いで餌を食べる。
その様子を見ながら、角村さんが言った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ