優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第12章 ふたりの憧れ
「えー?! まって、どういうこと?!」
今度はいっちゃんの方が叫ぶ。
お互いがお互いに信じられないようなものをみた、そんな顔をしていた。
きっと、井田先生も一緒に暮らしているなんて知ったら、さらに驚いてしまうかもしれない。いっちゃんに、その事を告げるのは、春ちゃんの許可を得てからだなと考える。
……芋堀の手が止まっていたことにも、2人とも気づかない。
ついでに、井田先生が近づいてきていることにも……気づかない。
「はいはーい、おふたりさん。お芋掘りの手、止まってるよ」
いつの間にか目の前にいた井田先生にはっとして、中断していた手を動かす。
「いっちゃんもさっちゃんも、仲良くて結構。でも僕の腰には代えられないから、しっかり働いておくれ」
いっちゃん、さっちゃん。そう呼ばれて、2人よろしく返事をする。
井田先生に気づかれないように、苦笑いして顔を見合せた。
井田先生が大量のきゅうりを抱えて、離れていくのを確認すると、いっちゃんはわたしの耳元に口を寄せる。
「……いまの、優先生には、絶対言わないでね」
「わかってるって!」
わたしは大きく頷く。
共有された、わたしたちの想い人に、今度は声を抑えて小さく笑った。