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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第12章 ふたりの憧れ

……ん? 待って、今、なんて?

ゆ、優……?

わたしは、さっきまでの感情とは違うものでフリーズした。
附属病院の小児科の優先生は、わたしが知っている中ではたった一人。

「ゆ、優?!」

驚いて、大きい声が出た。
日が傾いてきた秋の空と、西陽が差す校舎に、わたしの声がこだまする。
遠くにいた井田先生がこっちを向いた気がして、慌てて口を噤んだ。

「さっちゃん、しーっ!」

いっちゃんも、口元に人差し指を立てる。

「ご、ごめん、ごめんね。……いっちゃん、驚くようなこと、言ってもいい? その、優先生って、澤北優先生だよね……?」

あたふたしながら、いっちゃんに確認を取る。
頷きながら、今度はいっちゃんの方が息を止めた。

「……その、優先生なんだけど……わたしの、お兄ちゃんなの。……訳あって、苗字は違うけれど。いま、一緒に暮らしてて」

『わたしのお兄ちゃん』
初めて優のことを、そう表現することに戸惑いながら口にする。

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