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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

時々、お菓子づくりを休んで、畑に出た。
由貴くんが畑に出ることは初めてで、これには井田先生も大いに喜んだ。

「え? 由貴も畑手伝ってくれるの? もう部員だね」

「まだそういうわけじゃ……」

井田先生にわしゃわしゃ髪を撫でられながら、控えめに由貴くんが言った。
いっちゃんは目を輝かせながら、わたしの肩に手を置く。

「いいじゃん! 入部しようよ! ね、部長!」

突然出てきた部長という単語に、咄嗟に反応出来ずにわたわたしてしまう。
いっちゃんはいつも唐突だ。思えば、動植物部、と最初に言ったのも、いっちゃんだ。

「あ、え、わたしが部長なの? ……あ、もちろん由貴くんが入部するのは歓迎なんだけれども」

戸惑ったわたしに、いっちゃんは真面目な顔をして言葉を重ねた。

「当たり前だよ、さっちゃんいないと始まんないし」

「部長も決まって、部員も増えたし。部活っぽくなってきたねぇ」

井田先生がにっこりと微笑む。


今日は、完全に茶色くなった朝顔のツルの片付けと、種の取り外し。あんなに青々と茂っていた朝顔のつるは、全て枯れて茶色くなった。
完全に夏が終わった、そんな感じがしてすごく寂しい。

わたしはそんな朝顔をみて、少し考えたことがあった。

「井田先生。朝顔の種、袋詰めして配るのは、ダメですか?」

すぐさまそれに、横からいっちゃんが反応する。

「さっちゃん、いいねそれ!」

「いいよ〜。来年の分残してくれれば。あと1週間、間に合うかね?」

「俺も手伝います」

わたし達の様子を見て、井田先生は微笑む。
きっとそれは、わたし達3人が望んだ姿でもあり、井田先生が願った姿でもあったのだろう。

「ん、じゃあ3人で頑張れ」

「……わかりました!」

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