優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第15章 文化祭(後編)
「一華、いつ退院できるの?」
由貴くんがいっちゃんに聞いた。いっちゃんは言葉を選びながら話す。
「うーん……わたしの病気さ、すっかり良くなるって難しくて……その、こうやって入退院を繰り返すと思うんだ」
言葉に迷ういっちゃんは珍しい。
ゆっくりと紡がれる言葉を、黙って聞いていた。
「とりあえず、今回の入院は、上手くいってあと1週間かな。次、いつこうなってしまうか、わかんないけれど……」
いっちゃんが、苦しそうに息を吸う。
「あのさ、そうなっても……待っててくれる? いつでも、こうして、3人で居たいんだよね」
わたしは、いっちゃんの手を握った。
「待つよ。待つに決まってる」
ぎゅっと握ったら、いっちゃんが握り返してくれて、心があたたかい。
3人でいる場所が、わたしたちの居場所だった。
由貴くんは大きく頷いた。
……少しの沈黙のあと、迷いながら、いっちゃんを見つめると、口を開いた。
「……一華、俺も話しておきたいことがある」
そう切り出した由貴くんが、自分のこと、わたしに教えてくれたことをもう一度話し出す。
「……知ってて欲しくて。こうして3人でいられるように」
由貴くんが、わたしたちの目を真っ直ぐ見つめた。いっちゃんが、にっこり笑って答える。
「変わらないよ、何も」
……数日後、優から伝言があった。
いっちゃんから、2人で話そうと。予想はついていた。わたしもずっと、いっちゃんと2人で話したかったから。