優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第15章 文化祭(後編)
「……ただいま」
家に帰ると、優も春ちゃんもいて、あったかいリビングに立ち尽くすわたしは、ほっとしていた。
帰ってきた、と心からほっとして……なんだか上手く動けなかった。
「「おかえり」」
わたしの目は腫れていたけれど、優も春ちゃんも少しだけ驚いた顔をしただけで、それについては何も言わなかった。
ただ、春ちゃんが、
「ご飯、今日は寒いから鍋ね」
と言い、優が、
「外、寒かっただろ。風呂、入っておいで」
と、それぞれ声をかけてきた。
声もなく頷いて立ち尽くしてしまうわたしに、春ちゃんが困ったように笑いながら近づく。
「はいはい、コート脱いで。先にお風呂のほうがいいか〜、ほっぺ冷たいしねぇ〜」
……春ちゃんがわたしの頬を両手で包み込んで……包み込まれたところで、一滴だけ涙が出た。ごしごし拭うと、見なかったことにしてくれて、代わりに1度だけ、わたしのことをぎゅっと抱きしめた。
温かくて、しがみついて泣きたい衝動に駆られたけれど、いつまでもぐずぐずしている自分が嫌で、ぐっとその衝動を堪えた。
その夜は、3人でベッドに入った。
いつかの時みたいに、右手と左手を優と春ちゃんに預けて。
そうしたら、ずっと早く眠りに落ちてしまった。
秋から冬に変わる。
深くて暗い夜の中に、体を預けた。