優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第15章 文化祭(後編)
「由貴くんのことは……」
心配そうな表情に、わたしの胸が痛む。
ずっと話したかったのに、言葉が出てこなくて、胸の内から言葉を探した。
「……いっちゃんが倒れたあの日、2人で話したんだ。その時、由貴くんのこと、話聞いて……伝えるだけ伝えようと思って、由貴くんが好きって……。これでいいんだと思った。もともと、どうしたいかもわからなかったから」
これでいい。これでいいんだ。
そうやって、蹴りをつけた気持ちに、嘘はない。
由貴くんとこれからも、いっちゃんと3人でいることが、嫌だと思うこともない。
でも。なんでこんなに悲しいのか。
「さっちゃん……頑張ったんだね」
呟くように、いっちゃんが言った。
……あぁ、そっか。わたしはずっと……
ずっと知らないうちに、この気持ちをどうしたらいいかわからなくて、もがいてたんだ。
「いっちゃん……いっちゃん、わたし……」
やっと、地に足が着くような感じがした。
そわそわとしていた心が、落ち着いてゆく。
「大丈夫、大丈夫」
いっちゃんが、わたしの事を抱きしめた。
その温かさに、何回救われてきたのかわからない。
冬が迫る屋上で、声を上げて泣いた。
いっちゃんはわたしが落ち着くまで、ずっとそうしてくれていた。