テキストサイズ

優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第17章 願いごと

お参りが終わると、参道にならんだ屋台を見て回った。
夏の屋台では見なかったものもある。

『たいやき』

たい、焼き……?

首を傾げたわたしを、優はおかしそうに笑う。


「咲、たいやき食べたことないか?」


「……魚なの?」

言ってみたけど、魚を焼くような匂いはしない。
代わりに、甘い匂いが周りに漂っている。

「うーん。魚かもな」

屋台に近づくと、その正体が明らかになる。

なるほど……これがたいやき。


屋台にいたおじさんが、わたしたちを一瞥すると、ぶっきらぼうに「いらっしゃい」と言った。
その手元には、鯛の形の焼き菓子がズラリと並び、鯛はみな、お腹がぱんぱんに膨れていた。

「つぶあんとこしあん、それからカスタード2つで」

優が注文すると、紙袋にお腹がぎちぎちの鯛たちが4匹、みっちり入って手渡された。
紙袋を覗き込むと、鯛たちと目があってなんだか気まずい。
きっと4つ買ったのは、優が2つ食べるから。文化祭のマフィンもひとつ多めに買っていたのを思い出していた。

優が会計を済ませる間、首を回して辺りを見渡す。よく見ると、参道には他にもたいやき屋がいくつか並んでいる。
キョロキョロしていると、優がわたしの気持ちを組んでくれて、こっそり囁いた。

「愛想は良くないけど、あのおじさんのたいやきがいちばん美味しい。あんの量が多い」

「なんで知ってるの?」

驚いて目を丸くすると、優が思い出すように笑っていた。

「毎年、春斗とここの神社に来るたい焼き屋を食べ比べてた」

優と春ちゃんが、2人で大量にたいやきを買い込む姿を想像して、笑みがこぼれる。

「去年、何個ずつ食べたの?」

「ん、お互い5個ずつかな」

「……5個も……!」

優と春ちゃんは、大人なのに、たまに大人っぽくないことをしている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ