優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第18章 揺れる日々
「すごーく……寂しいよ。それと、同じくらい、すごーく心配してるんだよ」
少しおどけたように春ちゃんが言った。
……部屋の扉が、そっと開く。
優が、静かに入ってきてわたしと春ちゃんに背を向けて、ベッドに腰掛けた。
春ちゃんが、笑う。
「……邪魔したか?」
「……ううん。優も寝たら?」
3人で布団に入る。
こうやって何かを話すのは久しぶりな気がした。川の字になって寝ていることが、おもしろいことのような気がして、少し笑う。
でも、いつも3人で一緒だった。
怖かった時も、楽しかった時も、大事なことを知った夜も。
ふっと緩んだ空気の中で、春ちゃんが気持ちの深いところをゆっくりと打ち明けていく。
「咲がこの1年で、ゆっくり成長する姿をみて、すごく嬉しかった。本当の家族みたいに。……医師や教師として、子どもと関わることはあったけど、こんなふうに家の中や外で、親子みたいに関わったことはなかったから」
震える声を整えるように、春ちゃんが大きく息を吸って、吐いた。
春ちゃんと優が、ここをわたしの居場所にしてくれたことが、わたしは本当に嬉しかった。
「……戸惑うこともあったよ。でも、母さんもこんな気持ちで俺と兄を育てたのかもなって、そう思ったから。だから、なおさら、いま母さんに会いに行かなきゃって思ったんだ」
そっと、春ちゃんの横顔を覗き見ると、苦しそうな、悲しそうな笑顔を浮かべていた。
春ちゃんにとって、とても大きな決断だったことがわかる。
「咲は、人の気持ちを想像できる、優しい子だ。だから、いろんなことを想像してくれたと思う。実家の家族のことも。……今回はそれに、少し甘えさせてもらうね」
にっこりと笑うと、もう一度わたしの頭を撫でた。
わたしは小さく頷く。寂しい気持ちと、嬉しい気持ちが、ごちゃまぜになって、胸の中に落ちていくようだった。
でもきっともう、わけもなく不安になることはないんだと、確信のようなものも湧いてきていた。