優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第21章 番外編 ちょっとそこまで
1
咲が、玄関先、期待と不安を入り混ぜたような顔で立っていた。
春斗が選んだ、よそ行きのワンピースを着ている。
春斗は忙しなく、母親のように世話を焼く。
スウェットのまま玄関に顔を出すと、2人に近づいた。
咲は少し、世間と離れていた(というか離されていたというか、そうせざるを得なかった)ところがあるから、心配なことも多い。バスの乗り方を聞くと、一華を頼りにするから大丈夫だと言う。
「……そうだ。優と春ちゃんも久しぶりに揃って休みなんだから、ゆっくりしてね」
出かけ先、咲が言った。
いつの間にか気を遣われているようだ。春斗が少しいたずらっぽい笑みを浮かべながら、
「優、今日は俺とデートする?」
なんて言ってくる。きっと春斗が犬なら尻尾を振っているのがわかる。調子に乗るなという意味も込めて、速攻で断りを入れると、尻尾はしょんぼりと項垂れた。
咲が笑いながら、余計なことを言う。
「デートしたらいいのに! なんて言うんだっけ、えーっと、夫婦水入らず……?」
「咲……!」
思いがけぬ一言は、薮から棒。
「マセてんね、そんな言葉どこで覚えたのさ」
そう言いつつも、春斗の尻尾はブンブンとご機嫌になって……なんだか目に見えるようだ。
咲が玄関の扉に手をかける。
後ろ姿は、明るい外の光の中に消えていった。
「いってらっしゃい」で見送ったあと、静かになった玄関で顔を見合せた。
春斗がにっこりと、嬉しそうな顔をしてこっちを見る。
……尻尾の振り幅は最大級だ。
見なかったことにしよう。
背を向けてリビングへ退散すると、思いがけない強い力で両肩を掴まれた。これではまるで、飛びついてきた犬そのものだ。
咲が、玄関先、期待と不安を入り混ぜたような顔で立っていた。
春斗が選んだ、よそ行きのワンピースを着ている。
春斗は忙しなく、母親のように世話を焼く。
スウェットのまま玄関に顔を出すと、2人に近づいた。
咲は少し、世間と離れていた(というか離されていたというか、そうせざるを得なかった)ところがあるから、心配なことも多い。バスの乗り方を聞くと、一華を頼りにするから大丈夫だと言う。
「……そうだ。優と春ちゃんも久しぶりに揃って休みなんだから、ゆっくりしてね」
出かけ先、咲が言った。
いつの間にか気を遣われているようだ。春斗が少しいたずらっぽい笑みを浮かべながら、
「優、今日は俺とデートする?」
なんて言ってくる。きっと春斗が犬なら尻尾を振っているのがわかる。調子に乗るなという意味も込めて、速攻で断りを入れると、尻尾はしょんぼりと項垂れた。
咲が笑いながら、余計なことを言う。
「デートしたらいいのに! なんて言うんだっけ、えーっと、夫婦水入らず……?」
「咲……!」
思いがけぬ一言は、薮から棒。
「マセてんね、そんな言葉どこで覚えたのさ」
そう言いつつも、春斗の尻尾はブンブンとご機嫌になって……なんだか目に見えるようだ。
咲が玄関の扉に手をかける。
後ろ姿は、明るい外の光の中に消えていった。
「いってらっしゃい」で見送ったあと、静かになった玄関で顔を見合せた。
春斗がにっこりと、嬉しそうな顔をしてこっちを見る。
……尻尾の振り幅は最大級だ。
見なかったことにしよう。
背を向けてリビングへ退散すると、思いがけない強い力で両肩を掴まれた。これではまるで、飛びついてきた犬そのものだ。