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龍と鳳

第5章 はじめてのチュウ

また落ちたらいけないから、って、智の掌に包まれたまま空を翔けた。

神様が出羽にお出掛けなさるから、その間に日ノ本(ひのもと)を見せてやる、って智が背中に乗せてくれて。
長く続く山脈をどんどん南下して海に出た。

オレはまだ飛べないから見下ろす景色が珍しくて。おもしろ怖いのに慣れてきた頃、つい羽根を広げてみたんだ。
そしたらあっと言う間に風に持って行かれて、智の背から落ちてしまった。

船の上では見たことがあるような二人が居て、ちっちゃな白いにょろにょろも食わせてもらったし、意外と楽しかったんだけど。

でも。
さっき見た智の物凄い怒り方が忘れられなくて、オレは涙が止まんない。
龍って怒るとあんなに怖いんだ。
びっくりした。

びっくりしたぁ(泣)。

シクシク泣いてたら智が何回か話しかけてくれたけど、怒られたらどうしよう、って思って返事が出来なかった。
あの雷に貫かれたら、オレなんか一瞬で焼き鳥だよ。

とにかく大人しくしていよう、と思って静かにしてたら、やがて智の気が下に伸びて行って、降りるぞ、って想念が伝わって来た。

着いたところは何だか大きな四角い建物の上。そこで人形(ひとがた)になったんだけど、なんと龍じゃなくなった智はオレの大好きなベガ様にそっくりで、思わずまじまじと見つめてしまう。

服を出せないオレにまだら模様の半ズボンと、ポケットが着いたTシャツ、サンダルを出してくれて意外なほど優しい。
Tシャツ以外はお揃いだ。

なんだ、怖いと思ったけど、ベガ様に似てるなら大丈夫かもだ。きっと普段は優しいんだなってオレは思った。

降りた場所には稲荷神のお社があって、智はそこに挨拶に行って。
オレにはよくわかんなかったけど、礼儀だから、って言われたから、一緒に行ってオレも頭を下げた。

お社は小ぶりだったけど、鎮座していらっしゃる神様はとても神格が高くて。
威厳よりも慈愛の方が強いご性質らしく、オレたちに、遠慮なく休んでいきなさい、って言ってくれた。

龍は日が沈んでしまうと空を飛ぶことが出来なくなって、無理して飛ぶと凄く疲れる、って。
それで、今夜はお山には帰れない、って、智が教えてくれる。

やっぱりオレが落っこちたから、迷惑かけたんだ。
がっかりして、また泣きそうになった。


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