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龍と鳳

第5章 はじめてのチュウ

『雛よ、案ずるな
この龍はお前を探すのに必死だったのだ
小さなお前が人間に食われるのではないかと
怒りに我を忘れたに過ぎぬ
龍の怒りは誠に凄まじい
怯える気持ちはわかるがの』

神様のお姿は、最早高い波動となっている為に人形を取ったオレには見えなかったけど。
輪郭が金色に光ってるのだけ辛うじて見えて、神様が笑うと、それがいかにも楽しそうにフワフワと揺れた。

「へっ、お前、オイラが怖くて泣いてたの?」

お言葉を聞いて、智が驚いた顔をする。

「……うん」

「ええ~マジかぁ~
なんだよ、言えよ~
オイラてっきり、アイツらに酷いことされたか
腹でも痛いのかと思ったじゃん
心配して損した」

言えるわけないだろっ。

大真面目にびっくりしてる智を見て、独特だな、とオレは呆れた。
そっか、オレのこと心配して、あんなに怒ってたんだ。
なんだ、良かった……。

「えへへ……」

見上げて笑ったら、智も笑い返してくれる。
ベガ様にそっくりの、ふにゃふにゃの笑い方だ。なんだ、大丈夫だ。

「へへっ……えへへへっ」

「なんだよ、さっきまで泣きべそだったくせに今度は笑ってら」

智がオレの頭を撫でながら嬉しそうに言った。

しばらくすると二形を持たない人間が数人やって来た。
感心なことに、ちゃんと神様のお社にご挨拶に来たから、側に居たオレ達にも気がついたみたいで。
こんばんは~、って声を掛けてきた。

花火を見にいらしたんですか~穴場ですよねぇ~、って。

智が口の中でモゴモゴってなんか答えてて、遠くの空を指さして頷く。

智に似た感じの男の人(つまり、この人もベガ様に似てる)がオレの前でしゃがんで、可愛いねぇ、って頭を撫でてくれた。

その人の隣にいた別の男の人(こっちはアルタイル様に似てた)が、良かったら一緒にどうですか、って言って。

智がまたなんか、邪魔すると悪いから、とかモゴモゴ言ってたけど、オレはその人達がすることに興味があったから、智の手を引っ張って一緒について行くことにした。

「はい、好きなの取っていいよ」

アルタイル様に似た人に言われて、花火?を貰う。
智が袋の中からこよりが束ねられたみたいな細い紙を取り出した。

「お前は初めてだから、最初は線香花火な?」

オレに一本手渡すと、やり方を教えるように、手を取ってロウソクの上にかざした。


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