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龍と鳳

第7章 【鳳凰編】春、お山にて

鳳凰ってそもそも日本には居ないから、お山の神様もよくはご存知でないらしい。

雄だけで繁殖するって話だから、そっち方面の目覚めが早いんだろうか。
わかんないけど。

だからってなんでオイラなんだよ~。

愚痴をこぼしてみても、ウチの神様はのんきだから、大方刷り込みみたいなものじゃろ、とか言って楽しそうに笑うばかりだし。

仕方なく布団を別にしたんだけど、隙あらばもぐりこんできてアチコチ舐められるからさ。
もうオイラはどうしたらいいのかホトホト困ってる。

だって、こう見えてもオイラはこの世に存在するようになってから300年は経つんだぜ。
あんな雛なんかそういう対象にならない。

そりゃぁ、翔は可愛いよ。
センター分けの前髪から覗くつるんとしたデコも、くりくりした目も、赤い唇もさ。

賢いし。
ちょっとドンクサイところも、確かに愛らしい。

でも、あくまでも預かってる客人だ。

人の気も知らないで毎日元気いっぱいなのは、大変結構なことだけどさぁ。
正直もう、オイラの手には負えません。

「お前、なんでいっつも朝になるとオイラの布団の中にいるんだよ
もう大人なんだろ?
頼むから一人で寝てくれよ……」

漬物と梅干で朝粥をいただきながら、オイラの向いに正座して食事をする翔に言い聞かせる。

「…………」

オイラが布団で悲鳴を上げたもんだから、すっかり拗ねてしまって聞こえているのに返事をしない。

たくあんを噛みくだく音だけがポリポリと響く。

「いいか? 
昨日も言ったけど
今日から『御鏡渡りの儀』で下界に降りるから俺はいないかんな
お前は初めてだから色々と見たいのはわかるけど、神事は春の知らせだ

毎年、天狗たちが縄張り争いを始めるし
人の気がお山に入ると陰に居るあやかしも湧いてくる

翔はお社で大人しくしてるんだぞ
お前みたいなひよっこ、ズルい人間に掴まったらあっと言う間に売り飛ばされるかんな」

口うるさいか、と思いながら、心配でついつい小言が出る。

お山に居る分には神様のご加護で安全だってわかってるんだけど、何しろまだ子供だ。
猫の子みたいに好奇心旺盛で、何でも知りたがる。
オイラが気をつけてやらないと。

鳳凰を食うと不老不死になるって、そう信じてる愚か者がいたら大変だった。

「……じゃねーし」

むっつりと黙っていた翔が、ぼそりと言った。



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